ゆう君とちっちゃなお友だち

 緑の男の子

「君はだあれ?」

五才ぐらいの男の子が尋ねました。

ゆう君と言います。

お父さんとお母さんとお姉ちゃんと、四人で山の牧場に遊びに来ていました。

ゆう君は「入っちゃダメ」と言われていた森の中に、何か光っているような気がして入ってきたのです。その中の大きな木の上の方の枝にゆう君の半分ぐらいの男の子が座っていました。

「僕が見えるの?」

先の方がブタのしっぽみたいになっている緑の帽子をかぶった男の子がいいました。

「うん」

「僕は木の妖精」

「妖精?」

「うん、妖精見るの初めてなの?」

と言いながら、目の前に飛んできました。びっくりして、大きな目をまんまるにしてみていると

「遊びに来る?」

と笑いながら言いました。

「でも…ママにしかられるから・・・・」

「大丈夫だよ。僕たちの世界には時間がないからね。」

と細い指の緑の手を広げました。

「時間がない?」

意味が分からず、キョトンとしていると

「じゃあ 一分だけ来てみたら?」

と言うので、ママに見つかっていないか振り返りながらその子の後をついていきました。

 

四人のお友達

 

木の反対側に行くと、前の木に三人の妖精がいるのが見えました。ピンクの帽子の子と、どちらかわからない黄色と茶色の子供でした。

「人間 連れてきたの?」

と茶色の子供が言いました。

「うん、この子僕が見えたんだ。」

「ふ~ん」

と言いながらピンクの子が近寄ってきて、じろじろ見ました。小っちゃいのにちょっとつり目で気が強そうでした。でも、

「よろしくね」

と言って笑うと、とってもかわいくなりました。みんなゆう君の回りに来てあいさつしてくれました。

「ぼくはゆう太、みんなは?」

と聞くと

「僕たち名前がないから、好きなように呼んでいいよ。」

と言うので、ゆう君は驚いて

「え? じゃあ呼ぶ時はどうするの?」

と聞くと

「呼ばれたら感じるのさ。」

ゆう君はよく言っている事がわかりません。

「こっちへおいでよ。」

と緑の子がゆう君の手を引っ張りました。すると、一瞬、回りがまぶしくなってまっ白で何も見えませんでした。しばらくすると少しずつ見えてきて、そこはガラスの世界でした。

「これはガラスじゃなくて水晶だよ。」

ゆう君はびっくりしました。何も言ってないのに思っていた事に答えたからです。緑の子が笑いながら

「僕 名前 君の好きなのぞみにするよ。」

「じゃあ 私はオムライス」 とピンクの子が言って

「う~ん そうだなあ じゃあ僕はヘラクレス」 と茶色の子

「私はアイスクリーム」 と黄色の子がニコニコしています。

ゆう君はまたびっくりしてみんなを見ました。みんなの名前は本当にゆう君の好きなものばかりだったのです。「どうして?」と聞こうとすると、大きな水晶の柱の向こう側に淡い水色のドレスを着た女の人が現れました。

「君たちのお母さん?」

と聞くと

「ううん、違うよ。あの人も妖精だよ。僕たち妖精に親はいないんだ。」

とのぞみがいいました。すると

「あんまりいっぺんに色々言うとわけわかんなくなっちゃうからやめたほうがいいわよ。」

とアイスクリームがまたニコニコしながらいいました。ゆう君はもうすでにわけわかりません。

オムライスが

「まあ いいじゃん」

と言ってのぞみと一緒にゆう君の手を持って浮き上がりました。すると、ゆう君も体がどんどん軽くなってふわふわ浮いてきました。みんなゆう君の回りを上にいったり、下におりたりしながらクルクル回ります。みんなを見ていると、ゆう君もクルクル、ふわふわ好きなように動けるようになりました。夢中になって、みんなと遊んでいると、急にママの事を思い出しました。

すると、突然下に落っこちてしまいました。

「だいじょうぶ?」

と言いながらみんなが来てくれました。

「うん、全然痛くなかったよ。それより、ぼく忘れてたんだ。早く帰らないとママにしかられるよ。」

「大丈夫って言ったでしょ?」

とのぞみが言いましたが、ゆう君には時間のない世界なんてどういう事なのかわかりません。すると、オムライスが

「じゃ 行こう」

と言ってゆう君の手を引っ張りました。すると、すぐにさっきの森になって、牧場が見えました。お姉ちゃんが食べかけていたソフトクリームをまだ食べています。あんなに遊んだのに・・・・・

びっくりして口も目もあんぐり開けて振り向くと、みんな笑っていました。でも、今日はもう帰る事にしました。

「また 会える?」 と聞くと

「うん いつでも」 とアイスクリームが答えました。

「でも 今度いつここに来られるかわかんないよ。」 と言うと

「ここじゃなくても会えるのよ。」 とアイスクリーム。

「木のあるとこなら、どこでもね。君が会いたいと思った時にね。」

とヘラクレスが言いました。やっぱり、言っている事があまりよくわかりません。

「そのうちわかるわよ。 じゃっ バイバイ」

とオムライスが言うと、みんなも「またね」とか「じゃあね」とか言って消えてしまいました。

 

妖精の絵

 

次の日、ゆう君はお絵描きの時間、のぞみたちを描いていました。隣で、UFOを描いている

たー君に

「妖精っていると思う?」

と聞いてみました。 たー君は

「妖精なんかいるわけないよ。宇宙人なら絶対いるけどね。」             

と言いながら、UFOの横にたこみたいな宇宙人を描き始めました。ゆう君がのぞみとアイスクリームを描き終わった時、前にいたリナちゃんが

「それ、まり先生が読んでくれた本に出てきた妖精?」

と聞きました。「わたしも描こうっと」と言って可愛い妖精の絵を描いています。ゆう君はリナちゃんにも

「妖精っていると思う?」

と聞いてみました。

「う~ん、わかんないけど・・・妖精ごっこだぁーい好き。」

と言ったのでちょっとがっかりしましたが、リナちゃんだったら信じてもらえるかもしれないので今度、こっそり話してみようと思いました。

 

花の精

 

その日の午後、ママもパパも遅くなるのでゆう君はお姉ちゃんとおじいちゃんの家に行きました。ゆう君はおばあちゃんが作ってくれるおやつは全部大好きなので、いつも楽しみにしています。その日は、アイスクリームがのったホットケーキでした。ほおばって食べている時、庭にあるもくれんの木を見て、木のある所ならいつでも会えるとのぞみが言っていたのを思い出しました。急いでおやつを食べて、外に出て木の前で目をギュッと閉じて、「のぞみ達に会いたい」と心の中で言ってみました。すると、すぐに

「やあ」 「こんにちは」

と声が聞こえました。目を開けるとのぞみがもくれんの木に座って

「呼んでくれてありがとう」

と言って手を振ってました。後ろから、おばあちゃんが

「もくれんの花 綺麗でしょう?」

と言ったので、あわてて

「うん、とってもきれい」 と答えました。                                       

「おばあちゃんには見えないの?」

と小さい声でのぞみに聞くと

「うん、君のおばあちゃんは妖精の事全然知らないからね。」

「なんでわかるの?」

「おばあちゃん 見たらわかるの。」

とオムライスが言いました。なんか今日もいっぱいわからない事がありそうです。

「遊びに来るでしょ?」

と言いながらアイスクリームとヘラクレスがゆう君の腕を引っ張りました。すると、また体が軽くなって回りがまっ白になりました。

 今度着いた所は同じように白いけれど、ふわふわっとしていて前と全然違いました。

「ここはどこ?」 と聞くと

「花の精の世界だよ。」 とヘラクレスが言いました。

「前に行ったのは?」

「あそこは妖精みんなが集まる所さ」 とのぞみが教えてくれました。

「色んな世界があるの?」

「うん、僕たちの知らない世界もいっぱいあるよ。」

「えっ そうなの?」 と言うと       

「遊びながら話そうよ。」

とオムライスがゆう君のてを取って上昇しました。

前の時のように、とっても気持ちよくなって、自分でふわふわ浮けるようになりました。するとなんだか、わからない事だらけでもいいような気分になってきました。

いつの間にか前にちっちゃな女の子がいました。頭に花びらの様な物をのせて、短いスカートをはいています。

「この子は花の精よ。」 とアイスクリームが教えてくれました。

ゆう君がちょこんと頭を下げると、ちょっと頭を傾けて、ニコッと笑ってくれて、優しそうで、かわいくって、ちょっとリナちゃんに似ていました。

「リナちゃんの事 好きなんだ。」 

とオムライスがニヤニヤしながら言うので、ゆう君はあわてて

「違うよ あっ リナちゃん妖精ごっこ好きだって言ってたから、みんなの事話してもいい?」

と、ごまかしました。

「もちろん リナちゃんも僕たちと友達になれるといいね。」

とのぞみも言うので、驚いて

「もしかして リナちゃんの事知ってるの?」  と聞くと

「君を見ていると、何があったとか、誰と話したとかわかるんだ。」 

とヘラクレスが言うので、ますますびっくりしてしまいました。横で花の精の女の子がコロコロと笑っています。見ると三人に増えてましたが、みんなそっくりで、ゆう君には同じに見えました。

「お花の好きな女の子なら違いがわかるかもね。」

とアイスクリームが言いました。思った事に答えられるのには段々と慣れて来ました。

「お花の精とか木の精って、いつもは何をしているの?」

とゆう君が聞くと、ヘラクレスが

「木や花が元気になるように、エネルギーを送っているんだ。」

と答えました。オムライスは

「ただ遊んでいるだけじゃない。」

と笑いました。お花の精たちもまたコロコロと笑っています。

「僕たちが楽しめば楽しむほどそれがエネルギーになって、木や花たちは元気になれるんだ。」

とヘラクレスが今ひとつわからなくてキョトンとしていたゆう君にもう一度教えてくれました。

「だから もっと遊びましょうよ。」

と言って、アイスクリームがゆう君と花の精の手をとりました。みんなで輪になって回りだすと、花の精たちがかわいい声で聴いたことのない歌を歌いだしました。とっても優しい歌で、ますます気持ちよくなって幸せな気分です。いつのまにか輪の中心から綺麗な花びらがひらひら舞い上がってきていました。回りを見ると色とりどりのたくさんのお花でいっぱいになっていました。ゆっくりになったり、早くなったりしながらクルクル回っていると、ゆう君たちの外側にたくさんの小さな花の精たちが大きな輪を作りました。早く回っている時、丸く光って、お姉ちゃんの入学式にしていたママの真珠のネックレスみたいに見えました。

リナちゃんが来たらきっと喜ぶだろうな~と思っているとヘラクレスが

「リナちゃんは空想するのが好きだから、ゆう君が作ったおはなしとして僕たちの事を話してあげるといいよ。」 

と言いました。オムライスが

「大丈夫 上手に話せるように応援するから。」

と言ってくれました。のぞみも

「僕たちのお話しを喜んでくれたら、もう僕たちリナちゃんと友達だよ。」

と優しく微笑みました。

「ありがとう あしたリナちゃんに話してみるよ。今日はそろそろ帰るね、バイバイ。」

「バイバイ」 

「またね」

「明日 がんばってね。」

「じゃあね」

と手を振ると、もくれんの木の前に立っていました。おばあちゃんとお姉ちゃんはまだホットケーキを食べていました。

 

リナちゃん

次の日幼稚園でゆう君はリナちゃんにどんなふうに話そうかドキドキしていました。リナちゃんが桜の木の下に行った時、その木が光りました。近くに行くと、オムライスが手を振っていました。ゆう君は頷いて、リナちゃんに声をかけました。

「リナちゃん ぼく、妖精の話知ってるんだけど聞いてくれる?」

「ほんとに? はなして、はなして」

ゆう君は一生懸命話しました。オムライスが助けてくれているのを感じて、

自分でもびっくりするくらいスムーズに話せました。リナちゃんは

「すごーい おもしろーい。ゆう君って天才!」

と喜んでくれましたが、なんだかきまり悪くて

「こっれて、ぼくが見た本当の話なんだ。」 

と言うと、

「またまた~ ゆう君っておもしろい子だったんだ。気づかなかったけど・・」

と言って笑いました。

アイスクリームたちが言っている事がやっとわかって、ゆう君も

「へへっ」

と笑いました。そして、こっそりオムライス達に「ありがとう」といいました。

 

野菜の精

 

 それからは、おじいちゃんの家に行くといつも妖精達に会うようになりました。もちろん、おばあちゃんの作ってくれたおやつを食べてからですが・・・

リナちゃんはお花が好きなので、のぞみ達は色んなお花の精たちに会わせくれました。そして次の日、そのお話しをするとリナちゃんはとっても喜んでくれました。

ある日、いつものように庭に出るともくれんの木にアイスクリームと一緒に知らない妖精がいました。

「この子はネギの精」

とアイスクリームが紹介すると、そのネギの精は

「初めまして、でも私たちはあなたの事よく知ってるの。あなたのおばあちゃんはネギをとっても大事に育ててくれるし、元気に育つと喜んですごく感謝してくれるの。だからみんなあなたのおばあちゃんが大好きでよくここにくるの。」

と言ってプランターに青々と育っているネギのところに来ました。ゆう君はネギは苦手なので、戸惑っていると、

「野菜の精の所に来てみない? ネギやピーマンは苦手かもしれないけど、

あなたの好きなトウモロコシやじゃがいもの精もいるわよ。」

と言いながら優しく微笑みました。

「そうなの? じゃあ行ってみる。」

と言うと、アイスクリームと一緒に手を引っ張ってくれました。まっ白になった後見えたところは楽しそうで不思議な世界でした。小さな妖精が踊りながら何列かになって交差したり、輪になったり、浮いたりしながら行進しています。トマトやなすびなどはすぐにわかりますが、何かわからない妖精もいっぱいいました。一列になって、ゆう君のところにやって来て順番にほっぺにキスしてくれました。最後にトウモロコシの精が来てキスをした後、手を取って踊り行進に連れ出しました。ゆう君もクルクル回ったり、浮いたりしながらみんなに混じって行進しました。妖精達と踊るのがとっても上手になってきました。

この日、帰る時ゆう君は聞いてみました。

「どうしてぼくはみんなが見えるようになったの?」

「君が妖精の話を聞いた時、本当にいるんだったら会いたいと思ったからだよ。」

とヘラクレスが教えてくれました。

「それだけ?」

「それだけ。」

とオムライスとのぞみが同時に言いました。そしていつものようにみんな笑顔で見送ってくれました。

 

野菜大好き

 

その日の夕食は、ゆう君の苦手なピーマンの入ったお肉の炒めものと野菜たっぷりのたまごサラダでした。でもなんだかいつもよりおいしそうに見えました。食べてみると、甘くておいしく感じました。ちょっとびっくりしましたが、どんどん食べていると、ママはもっとびっくりして聞きました。

「どうしたの? どうして急に野菜好きになったの?」

ゆう君はきっと野菜の精たちがキスしてくれたからだと思いながら

「おまじないをしてもらったんだ。」

と言うと、ママは不思議そうに言いました。

「そうなの? 誰にしてもらったの?」

「ないしょ 言ったらきかなくなるから。」

「ふーん そう。でもママとっても嬉しいわ、これからはお野菜小っちゃく切らなくても大丈夫でしょ?」

「うん たぶん。」

「ねえ お友達にも教えてあげたら?」 

「信じないときかないんだ。」

「ふーん」

と言いながらママはゆう君をじぃーと見ました。そしてにこにこしながらごはんを食べました。

 

 

妖精たちの願い

 

 それからおばあちゃんが育てているネギのプランターに時々ネギの精が遊びに来ているのを見かけるようになりました。幼稚園の花壇でもお花の精が見える事がありますが誰も気づいてないみたいです。のぞみ達に会った時聞いてみると、

「それはゆう君が妖精の事信じるようになって、全然怖がらなくなったからだよ。みんな人間ともっともっと友達になりたいんだ。」 

と教えてくれました。

「どうしたらみんな信じてくれるようになるの?」

「いつかきっとそうなるよ。でもゆう君が僕たちの事色んな人に話したり、お話し作ったりしてくれたらもっと早く信じてくれるようになるかもね。」

とヘラクレスが言いました。

「でも、リナちゃんはぼくが作ったお話しだと思っているよ。」

「それでいいの、私たちに興味を持ってくれるだけで。大丈夫よ リナちゃんも私たちの事信じるようになって、いつかきっと会えるわ。」

とアイスクリームがいつものように優しく言いました。すると

「ねえ 大きくなったら私たちの事本にしてよ。」

とオムライスが突然言いました。

「ぼくが?」

「そう お話し上手じゃん。」

「でもそれはみんなが手伝ってくれてるからでしょ?」

「そんなことないよ。私たちはエネルギー送ってるだけで、どんなふうに話すかはゆう君が決めているの。」

「そうなの?」

みんなにこにこしながら頷いています。なんだか明日からお話しする時、初めての日みたいにドキドキしそうです。

「だいじょうぶ!」

みんないっせいに言いました。

 

リナちゃんの引っ越し

 

それからも、リナちゃんは、ゆう君のお話しを、喜んで聞いてくれました。そして、リナちゃんも大きくなったら本を書くことに賛成してくれました。

でも、リナちゃんは三か月後、突然引越ししてしまいました。

落ち込んでいるゆう君に、のぞみ達はいつかまたきっと会えると励ましてくれました。そして妖精たちの事忘れないで、いつでもリナちゃんに話せるように、絵に描いておくといいと教えてくれました。のぞみ達はそれからもしょっちゅう来てくれて、色んな所へ連れて行ってくれて、絵のアドバイスをしてくれました。少し大きくなって、字が書けるようになったゆう君にもどんな風に書けば分かりやすいか教えてくれました。それはずっとずっと続き、現在も進行中です。

 

あとがき

 

大人になった僕は今、このお話しを書いています。

そして、僕の隣にはリナちゃんがいます。

再会した僕たちは、去年結婚しました。もうすぐ生まれてくる子供に、プレゼントする為に、お話しを本にする事をリナは進めてくれました。その前に、僕はリナにこのお話しをプレゼントしたいと思います。再会できた事、結婚できた事に感謝を込めて・・

 

のぞみ達もリナと僕の事、とっても喜んでくれています。そしてみんなの本が出来る事も。

でも、リナはやっぱり僕の空想のお話しだと思っています。

 

                   おしまい

最後まで読んでくれてありがとう